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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)348号 判決 1973年9月28日

控訴人(附帯被控訴人) 武村富治夫

右訴訟代理人弁護士 和田一夫

控訴人(附帯被控訴人) 株式会社富士美機械製作所

右代表者代表取締役 石田情好

右訴訟代理人弁護士 中村公男

同 絵川長昭

同 渡辺四郎

被控訴人(附帯控訴人) 山口吉美

主文

控訴人武村富治夫の本件控訴及び被控訴人の控訴人株式会社富士美機械製作所に対する附帯控訴に基づいて、原判決主文一、二項を次のとおり変更する。

控訴人武村富治夫は原告に対し金六〇万円及びこれに対する昭和四一年二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人株式会社富士美機械製作所は原告に対し金二四〇万円及びこれに対する昭和四一年三月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。被控訴人の控訴人武村富治夫に対するその余の請求を棄却する。

控訴人株式会社富士美機械製作所の本件控訴、控訴人武村富治夫のその余の控訴、被控訴人のその余の附帯控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、被控訴人と控訴人武村富治夫との間においては、被控訴人に生じた費用の二〇分の一を控訴人武村富治夫の負担、同控訴人に生じた費用の一〇分の九を被控訴人の負担、その余は各自の負担とし、被控訴人と控訴人株式会社富士美機械製作所との間においては、被控訴人に生じた費用の五分の一を控訴人株式会社富士美機械製作所の負担、同控訴人に生じた費用の五分の三を被控訴人の負担、その余を各自の負担とする。

この判決主文第三項は仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を、附帯控訴につき「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を、附帯控訴として「原判決を次のとおり変更する。控訴人らは連帯して被控訴人に対し金六一四万二、五〇〇円及びこれに対する控訴人武村富治夫は昭和四一年二月二八日から、同株式会社富士美機械製作所(以下控訴人会社という。)は同年三月一日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の主張は次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人の主張

一、訴外佐渡山実の控訴人らに対する大阪地方裁判所昭和三四年(ワ)第二、二一九号所有権移転登記手続等請求事件(以下前訴事件という。)については、控訴人らの代理人秋山治土が被控訴人との間において控訴人両名が前訴事件の訴訟追行を被控訴人に委任し、その報酬は大阪弁護士会報酬規定(以下報酬規定という。)により控訴人らがその支払をなす旨の契約を結んだものである。そして控訴人会社は商人であるから控訴人らと被控訴人との間の委任契約は商行為である。従って控訴人らは商法五一一条一項により連帯して被控訴人に報酬を支払う義務がある。

二、前訴事件は佐渡山の控訴人らに対するそれぞれの請求、すなわち二個の請求を併合したものであり、右報酬規定によると一個の事件につきそれぞれ報酬を支払う定めである。従ってその報酬は一件につき経済的利益の一割、二件につき合計二割とすべきところ、請求併合により一つの訴とした関係上受任事務遂行についての時間・労力・費用を節約されたので、右二割を一割五分に減ずるべく、控訴人らの経済的利益すなわち前訴事件の第一審判決当時の本件土地価額一坪当り金五万円合計金四、〇九五万円の一割五分金六一四万二、五〇〇〇円がその報酬として相当であると考える。

控訴人武村の主張

一、弁護士への訴訟委任の報酬は当事者の意思も一つの算定基準となる。控訴人武村は控訴人会社に本件土地を代金三二七万円余で売渡しているもので、勝訴判決時の土地価額を経済的利益として報酬額を算定すれば、第一、二審の各弁護士に対する報酬金は右売買価額を大きく上廻り、訴を提起された段階で認諾をした方が有利な結果となる。

かかる不合理な報酬支払の意思を訴訟委任当事者双方が有していなかったことは容易に推認できるところであり、売買価額を基準として報酬額を定める意思であったものと推認すべきである。

二、前記被控訴人主張の、弁護士秋山治土が控訴人武村を代理して訴訟委任をする権限を有していたことを否認する。

三、被控訴人の当審における控訴人らが商法五一一条一項により報酬金支払債務につき連帯責任があるとの主張は、時機に遅れたもので訴訟の完結を遅延させるから却下すべきである。また同条が適用されるためには債務者らの行為が一個のものではならず、控訴人らの委任行為は別の機会に各別になされているからその適用がない。

控訴人会社の主張

一、被控訴人は前訴事件の第一審訴訟手続のみを委任され、しかも第一審判決は控訴され確定しなかったものである。かかる場合委任者は第一審の訴訟手続の事務的取扱いのみを委任したものであり、かつ委任者にとって具体的、現実的な経済的利益が発生していないから、経済的利益の価額算定困難な場合に関する報酬規定一〇条による報酬額を請求できるだけである。

二、また経済的利益は不動産に関する訴訟については訴額に外ならず、抹消された仮登記の回復登記手続請求の訴額は目的不動産の価額の二分の一である。そして訴額は訴提起当時を基準として判断すべきもので訴訟が遅延した場合には報酬金は訴額をもって算定した金額に利息を付すべきものである。

証拠≪省略≫

理由

当裁判所は、被控訴人の本訴請求を主文二、三項で認容する限度においてそれぞれ正当と判断するものであるが、その理由は次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由記載(原判決九枚目表末行から二二枚目裏一二行目まで)と同一(ただし、原判決一四枚目表六行目の「一七」を「一五」と、八行目の「同日」を「同月二二日」とそれぞれ改める。)であるから、これを引用する。

原判決九枚目裏六行目の「甲第八号証」の次に、「原審証人黒岩勝の証言」を、同八行目の「でき、」の次に「原審証人平島優、同今村善作、同通山末成(第一、二回)の各証言によるも右認定を左右するに足りず、他に」をそれぞれ加える。

原判決一九枚目裏四行目の「売主」の次に「(成立に争いのない乙第二、第四号証及び弁論の全趣旨によると、本件土地の売買代金は金三二七万六、〇〇〇円であることが認められる。)」を加える。

原判決二〇枚目表八行目、九行目の「すべきである。」の次に、次のとおり加える。

「控訴人会社は不動産に関する訴訟の経済的利益は訴額であって、抹消された仮登記の回復を求める訴訟の訴額は、訴提起当時の土地価額の二分の一であると主張するが、その主張の訴額は、多数事件を処理する裁判所の事務を簡易にするためと、当事者において容易に算定できることの必要性からその算定基準を原則的に定めているものであって、弁護士報酬の算定基準たる経済的利益は、その訴訟の結果によって実質的に生ずるところの利益を意味し、必ずしも前記訴額と一致するものということはできない。」

原判決二二枚目裏七行目の「、その他」から同一二行目までを「および前記売買代金が金三二七万六、〇〇〇円であることを考慮すると、控訴人武村が被控訴人に対して支払うべき報酬金は金六〇万円、控訴人会社が被控訴人に対して支払うべき報酬金は金二四〇万円をもって相当と認める。」と改める。

控訴人会社は、被控訴人に対する訴訟委任は第一審訴訟手続のみであり、かつ第一審判決は控訴され確定しなかったものであるから、委任事件について経済的利益は生ぜず、その報酬は報酬規定一〇条の事務取扱に関する労力的報酬を限度とすべきである旨主張するが、かかる場合においても、受任者が訴訟活動の結果勝訴判決を得た以上、その後それが変更されると否とにかかわらず、同審級における訴訟委任の目的を達したものといえるから、当該、勝訴判決に従った経済的利益を基準として報酬請求権が発生するものと解すべきであり、右判決が確定しなかったことは、報酬額を算定するについて考慮すべき一つの事情にすぎない。

被控訴人の、控訴人会社が商人であるから委任契約は商行為であり、商法五一一条一項により控訴人らは連帯して報酬を支払う義務があるとの主張について判断する。控訴人会社は株式会社であり、従って商人であるところ、控訴人の被控訴人に対する本件委任契約はその営業のためにするもの、すなわち附属的商行為であると推定され(商法五〇三条二項)、右推定を覆すに足る証拠はない。しかし、前記引用にかかる原判決理由(原判決一八枚目裏二行目の「同弁護士は」から同三行目の「認めることができ」まで)のように、秋山治土が控訴人らの各代理人として被控訴人の訴訟委任をしたが、それが同時になされたことを認めるに足る証拠はないから、商法五一一条一項の適用はない。

すると、被控訴人に対して、控訴人武村は金六〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四一年二月二八日から民法所定年五分の割合による遅延損害金を、控訴人会社は金二四〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな同年三月一日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、被控訴人の本訴請求を右の限度で正当として認容し、これと一部判断を異にする原判決を、控訴人武村の本件控訴及び被控訴人の控訴人会社に対する附帯控訴に基づいて変更することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 阪井昱朗 宮地英雄)

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